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広島地方裁判所 昭和43年(ワ)1385号 判決

原告

寺岡友明

寺岡止女代

代理人

椎木緑司

被告

大林八外

代理人

原田香留夫

外二名

被告

黒瀬町

右代表者

花房脩宗

代理人

上山武

主文

被告らは各自原告友明に対し二八万三二八五円を、原告止女代に対し一二万円を、被告大林は原告止女代に一八万円を、各金員につき昭和四三年四月二二日から完済まで年五分の割合による金員を付加して、支払え。原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告友明と被告らとの間では一〇分し、その一を被告らの、その余を同原告の負担とし、原告止女代と被告らとの間では三分し、その一を被告らの負担とし、その余を同原告の負担とする。

この判決の第一項中被告大林に関する分は仮に執行することができる。

事実

原告両名訴訟代理人は、「被告らは各自原告友明に対し四四七万三八四六円を、原告止女代に対し四〇万円を、各金員につき昭和四三年四月二二日から完済まで年五分の割合による金員を付して、支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、訴外寺岡幸保は昭和四三年四月二一日午前一一時頃広島県賀茂郡黒瀬町柳田地内柳田橋上の端にいたところ、被告大林の運転する普通貨物ダンプ・カーに衝突されて転倒し、その後輪により轢死した。

二、被告大林は砂利採取業を営み、右自動車を所有しているものであるから、その運行供用者として右事故につき損害賠償義務がある。

三、被告町は右柳国橋の管理者であるが、同橋は木造で幅が狭く、古いので橋桁が腐朽し、橋面に穴があり、車輛の通行は禁止されていた。ところが、被告町は橋の管理が不十分で、車輛の通行止の制札がなくなつているのに放置していた。その結果本件自動車の通行とこれによる橋の震動で、訴外幸保が逃場を失い、本件事故に至つたものである。

右次第で、被告町は国家賠償法二条により、本件事故による損害を賠償する義務がある。

四、訴外幸保は事故当時五才であり、本件事故により死亡しなかつたならば、一九才から六二才まで労働による収入が得られた筈で、この五才時における喪失利益は別紙表の計算により九一五万九二〇四円となり、その賠償請求権を取得した。

原告友明は訴外人の父であり、同人の母であり同原告の妻であつたカツ子は昭和四一年一〇月二五日原告友明と離婚して同原告が訴外人の親権者となつており、その後カツ子とは音信もなくその行方が不明であるから、原告友明は訴外人の喪失利益賠償請求権の二分の一の相続人本人および相続人カツ子の相続した二分の一については事務管理者として、被告らに右請求権を行使し得る。

五、原告友明は、訴外人の葬式費用として一〇万円を支出し、後継者である唯一の男子幸保を本件事故により失つて悲嘆は筆舌につくしがたくその慰藉料は三八〇万円が相当である。

六、原告止女代は訴外幸保の祖母で、その母カツ子が原告友明と離婚した後は、幼少の訴外人を、母親に代る愛情をもつて、養育していたいたので原告友明同様に慰藉料請求権を取得し、その額は五〇万円が相当である。

七、原告友明の請求権は以上の合計一三〇五万九二〇四円であるところ自動車損害賠償責任保険および被告大林から計四〇〇万円の支払を受けたので、残額は九〇五万九二〇四円となるので、内四四七万三八四六円(先ずカツ子分を請求し、これが容れられないときは、それだけ慰藉料を多く求める)を原告止女代は前記五〇万円を、これに対する事故発生の翌日から完済までの民事法定利率年五分による遅延損害金とともに請求する。と述べ、

八、被告らの主張につき、橋の幅員に余裕のあつたこと、事故の態様、被告大林に過失がなく、原告らおよび訴外人に過失がある、との点は否認し、高校生等と行動を共にしていたこと、柳田橋および自動車の幅、被告大林が無免許であり、自動車から止金が突出していたこと、橋上の訴外人を退去させないまま自動車が時速約三粁で進行したことは認める。

九、本件事故は、被告大林が右状態で進行した結果、橋が震動し、そのためよろけた訴外人を前記止金で引かけて転倒させた上後車輪で轢過し、頭蓋底骨折等の傷害により死亡するに至らせたもので、被告大林の過失および被告町の管理の不備による事故であることは明白である。

一〇、訴外幸保は年少であつて、過失能力がなく、当時一七才の高校生を頭に中学生等と同行していたのであるから原告らの監護の点にも手落はない。

と答え、

〈立証―略〉と述べた。

被告大林訴訟代理人は答弁として、

一、原告ら主張事実につき、一、二の賠償義務をのぞく事実、および四の内訴外寺岡幸保が事故当時五才であつたこと。原告らとの身分関係は認めるが、四の損害の点は不知、被告大林が本件事故につき責があり、賠償義務があることは争う。

二、被告大林は、柳田橋を渡ろうとした際、橋上に訴外人らを認め、これに退去するよう注意したが聞き入れないし、橋の幅員に余裕があつたので、自動車を進行させた。ところが、訴外人が自動車の通過直後に後車輪の後側に倒れ、目撃者の注意により被告大林が急停車したところ、橋の後輪の後にあたる部分がくぼんでいたため、自動車が後退して訴外人を轢圧し、本件事故発生となつた。

従つて責は訴外人とその監督者である原告らにあり、被告大林としては不可抗力による事故(止金の突出と事故の関係は不明)である。

三、仮に被告大林に賠償義務があるとしても、訴外人には父親の原告友明がいるので、祖母の原告止女代は慰藉料請求権がなく、また原告友明の請求は訴外人の母カツ子が現存するから過大である。

さらに被告大林は原告友明に一〇〇万円を支払い、昭和四三年四月中葬式等の際一三万四〇〇〇円の香料等を支払い、線香、生花等を供しているので、原告らの過失とともに賠償額に参酌すべきである。

と述べ、

〈証拠判断―略〉

被告町訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決を求め、答弁として、

一、原告ら主張事実につき被告町が柳田橋の管理者であり、右橋が老朽して車輛の通行は禁止されていること、訴外寺岡幸保が本件事故当時五才であつたこと、原告止女代が訴外人の祖母であることは認めるが、事故発生の状況は後記のとおりで、被告町が本件事故発生につき賠償の責を負うことおよび原告止女代が慰藉料請求権を取得することは争い、その他は知らない。

二、原告らが訴外幸保につき監護の責を果していないことから、訴外人は危険な柳田橋に高校生や学童と遊びに行き、更に被告大林は、無免許で、被告町設置の車輛通行禁止の立札があることを知りながら、自動車の幅が二米一〇もあり、ガソリン・タンクのこわれた止金バンドが車体から突出している本件自動車を、有効幅員二米六〇に過ぎない本件橋上に乗り入れ、前方で遊んでいる訴外人らを退去させる等のことをしないまま進行したという重過失が加わつて本件事故が発生したものである。

従つて責はもつぱら原告らと被告大林にある。

三、被告町は本件橋に通ずる県道付近にも諸車禁止の立札を設けており、柳国橋の老朽していることと本件事故発生とは因果関係がない。

四、原告止女代は民法七一一条の規定により慰藉料請求権を取得することはない。

と述べ

〈証拠判断略〉

理由

一、原告らの主張する日時に訴外寺岡幸保が原告ら主張の柳国橋上で被告大林の運転する貨物自動車ダンプ・カーの後車輪に轢かれて死亡したことは被告大林の認めるところであり、被告町は明かに争わないので自白したものとみなす。

二、そこで右事故発生の状況について検討する。

〈証拠〉を綜合すると次の事実が認められる。

1  本件柳国橋は木造で幅が三米、長さが57.2米、水面からの高さが4.4米あり、老朽して橋桁が腐朽し、橋面にはところどころ穴があり、二屯積以上の貨物自動車が通行することは危険な状態にあつた。

2  訴外寺岡幸保は当時高校生の麻田順一郎(一七才)を頭に中学生、小学生等五名で黒瀬川に魚釣に行き、右川にかかつた柳国橋上に居た。

3  被告大林は、柳国橋附近にある砂の採取現場に行くため、運転免許がないのに拘わらず本件自動車(車幅2.3米で四屯積)を運転して橋を南から北に向つて進行したが、右自動車の後部左側にあるガソリン・タンクの止金が切れて外に出ていた。

4  被告大林は橋上で訴外人らを認めて注意したが、訴外人らが橋上の西側(自動車進行方向からみて左側)に寄つて自動車を避けようとしただけで橋上から退去しようとしなかつたので、そのまま自動車を東側(右側)に寄せて時速三粁位で進行させ橋を渡ろうとした。

5  ところが自動車前部は無事訴外人らの横を通過したが、前記止金が訴外人の衣服にかかり、訴外人が転倒したところを後車輪が轢き、頭蓋底骨折等の傷害を与えて死亡するに至つた。

以上の事実が認められ(もつとも、右の内被告大林又は被告町の認めている部分がある)〈反証―排斥〉。

三、被告大林が本件自動車を所有し、砂利採取業を営んでいたことは被告大林の認めるところであり、二認定の事実によれば被害者にも後記のとおり過失があるものといわねばならないが、被告大林側としても事故が不可抗力とは到底いいがたく、狭い橋上に幼児、少年ばかりがいる際は、これらを退散させた上で自動車を運行すべきであるのにこれをしなかつたことによる事故として過失の責を免れないので、自動車運行供用者として本件事故につき賠償義務がある。

四、被告町が本件柳国橋の管理者であることは同被告の認めるところであり、〈証拠〉によれば、被告町はもと柳国橋について自動車の通行禁止の御札を掲げていたが、本件事故当時はこれがなかつたこと、柳国橋の周辺には黒瀬川にかかつた橋が存在しないこと、被告大林の外にも右橋を通行する自動車があつたが、被告町は制札の警備も橋の補修もしないで放置していたこと、が認められ、右事実に二、1に認定した柳国橋の状態を綜合すると被告町の柳国橋の管理には瑕疵があつたものといういうべきであり、本件事故は被告大林と被害者の過失にも原因することは前記のとおりであるが、被告町の右管理の瑕疵にも基因するものと認められ、同被告にも賠償の責がある。

五、〈証拠〉を綜合すると、訴外寺岡幸保は当時五才(昭和三八年一月二八日生)の健康な男子であつたこと、昭和四三年の全企業における男子の年令別給与額は別紙(編注―別紙省略)記載の金額のとおりであることが認められる。

そうすると厚生省第一二回生命表による平均余命を参酌するとき、特段の事情の認められない本件では、訴外人は高校を卒業した一八才から六二才まで就労して右給与を得たであろうと推認される。その間の生活費については一八才から平均結婚年令の二七才までは給与の五割、二八才から以後はその四割と認めるのが相当であり、給与額から右生活費を控除した額がその間の訴外人の本件事故による失つた利益となるので、これにつきライプニッツ方式により民事法定利率年五分の割合による中間利息を別紙(省略)2表のとおり控除するとき(原告らはホフマン式により行つているものと認められるが、本件のように長期間にわたるとき、これは相当でない)、訴外人の五才時における喪失利益は四三六万六五七一円となる。

しかし本件事故においては被害者にも過失がある(寺岡幸保は当時五才に過ぎないが、前二に認定のような危険な柳国橋上で、自動車を運転する被告大林が注意したに拘らず、立ちのかないような行動については責をとらねばならない)ので、被告町に対する関係では過失相殺により右喪失利益の四割に当る一七四万六六二八円につき賠償請求権を取得し、被告大林に対する関係では同被告の過失が被害者の過失に比し著しく大きいから喪失利益全額につき賠償請求できるものというべきである。

六、原告友明本人の供述によれば、訴外寺岡幸保の相続人としては父である原告友明と母であるカツ子がおり、原告友明は訴外人の前記賠償請求権につき相続分二分の一だけ相続取得した(従つて被告大林に対しては二一八万三二八五円、被告町に対しては八七万三三一四円となる)ことが認められる。

原告友明は、この点につき、同原告はカツ子と、訴外幸保の親権者を同原告として、離婚し、カツ子とは音信不通であるので、カツ子の取得分につき事務管理として訴求する、と主張するが、事務管理の規定は義務がないのに他人の事務を処理する行為の法的効果に関するものであつてこれによつて他人の権利を行使する基礎とすることはできないものであり、右原告友明の主張は採用できない。もつとも、右のような事実があるとすれば、被害者の親族に慰藉料請求につき影響があることはいうまでもないが、これは別のことに属し、後に触れるところである。

七、原告友明が訴外寺岡幸保の葬儀を本件事故後行い、その費用として約一〇万円を要したであろうことは推認されるるので、これにつき五の第三段と同様の理由から被告大林に対しては全額一〇万円、被告町に対してはその四割四万円の賠償請求権を取得したことになる。

八、〈証拠〉によると、訴外寺岡幸保の両親である原告友明とカツ子は昭和四一年に原告友明を訴外人の親権者として調停により離婚し、その後カツ子は訴外人らと交渉を絶つていたこと、右離婚当時原告友明および訴外人は原告友明の母である原告止女代(訴外人からいうと祖母になる訳である)と別居していたが、昭和四二年末に原告友明らが黒瀬町に帰来して同居するようになり、原告止女代は訴外人を母代りとして養育していたこと、原告友明にとつては訴外人が唯一の男子であり、本件事故によつて原告らが非常な精神的打撃を受けたことが認められ、本件事故の状況等一切の事情を考慮するときその慰藉料は被告大林に対するものは原告友明が二〇〇万円、原告止女代が三〇万円、被告町に対しては各その四割の額が相当であると認める。

被告らは原告止女代は慰藉料請求権を取得しないとして民法七一一条を援用するが、同条は慰藉料請求権者として被害者の父母、配偶者および子に限定したものと解すべきではなく、原告止女代と被害者との間に前段認定のような事情のある本件では、被害者の父親の慰藉料請求の外に祖母の右請求を認容するのが正当である。

九、そうすると、賠償請求権として、被告大林に対して原告友明は六、七、八の計四二八万三二八五円、原告止女代は八の三〇万円を、被告町に対して原告友明は六、七、八の計一七一万三三一四円、原告止女代は八の一二万円を取得したこととなる。

ところが原告友明は自動車損害賠償責任保険から三〇〇万円、被告大林から一〇〇万円の各弁済を受けたことを自認しているから、同原告の被告大林に対する賠償請求権は前段の額から右合計四〇〇万円を控除した二八万三二八五円となる。

被告らの原告友明に対する賠償債務は、債務額の少ない被告町の負担する範囲でいわゆる不真正連帯債務の関係となり、本件のように多額を負担する被告大林側の弁済があり、しかも、弁済額が右両者の負担額の差額すなわち被告大林だけが負担する額を越える場合は、被告町の債務もその超過額だけ消滅すると解するのが相当である。

そうすると、原告友明の被告町に対する賠償請求権も被告大林分と同様に二八万三二八五円となる。

一〇、以上の次第で、原告友明は被告両名に対して各二八万三二八五円、原告止女代は被告大林に対して三〇万円、被告町に対して一二万円(原告止女代の請求権の内一二万円が被告らの不真正連帯債務となり、一八万円が被告大林の単独債務となる。)および各金員について損害発生後の昭和四三年四月二二日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告らの請求を右範囲で相当として認容し、その余は棄却することとし、民訴法九二条、一九六条を適用(被告町に対する認容部分については相当でないので仮執行宣言を付さない)して、主文のとおり判決する。(辻川利正)

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